プレジデント誌の本特集。厳選300冊に3回も登場した本は?

by tanabe on March 11, 2008

帰りにふと NEWDAYS で PRESIDENT を見かけ、本の特集だったので即購入。

感想としては、皆「V字回復の経営」(三枝匡)が好きすぎて笑った。どんだけ三枝節が好きなのかと。いや、ぼくも好きですけど。

それにしても別々の人が挙げて三回登場はやりすぎだろう。これ世界の他の名著抑えてトップですよ。きっと。技術書で言ったら SICP 抑えて「ハッカーと画家」がトップみたいなかんじ。いや、たしかにそれも名著だし面白いけど、誰か止めろよ。という。

ということで、そんな大人気なくも選ばれてしまうくらい圧倒的におもしろい戦略と組織変革の教科書「V字回復の経営」。読んだことがない人は読みましょう。

V字回復の経営
V字回復の経営
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三枝 匡
日本経済新聞社 (2001/09/17)
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そんなところを抜きにしても今回の本特集は十分価格の元を取れる良い内容だった。

いくつかの記事から抜き出すと、

小城武彦さん。全体にバランスのよい選択で参考になった。特に「経営戦略の論理」(伊丹敬之)は書名は既知で未読だったので読んでみようと思う。「V字回復の経営」に「今ある経営書の中で最高の一冊」という熱いフレーズが付いていたのに笑った。

経営戦略の論理
経営戦略の論理
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伊丹 敬之
日本経済新聞社 (2003/11)
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成毛眞さん。「眠れない一族」(マックス)これは単純におもしろそうだった。さらりとこういうのを入れる成毛眞さんのセンスに完全に釣られた。「致死性の不眠症の起源を探るうちに80万年前の食人習慣にたどりつく。」「科学ホラーともいうべきノンフィクション」うーん。おもしろそうで、クラクラする。

成毛さんはしっかり「競争の戦略」(ポーター)、「イノベーションのジレンマ」(クリステンセン)、「経営者の条件」(ドラッカー)なんかが挙がっているところもポイント高い。ふと気付くと「コンテナ物語」(レビンソン)というよくわからないけど魅力的なタイトルも挙がっているし。

眠れない一族―食人の痕跡と殺人タンパクの謎
ダニエル T.マックス 柴田 裕之
紀伊國屋書店 (2007/12/12)
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内永ゆか子さん。春樹、好きなんだなぁw ねじまき鳥とかカフカとか、好きでもいいけど、ここで書かんでも。

米倉誠一郎さん。「GMとともに」(スローン)、「組織は戦略に従う」(チャンドラー)、「エクセレント・カンパニー」(ピーターズ)。あるべき PRESIDENT 誌の姿としてある意味安心を覚える内容。一人はこういう人がいないと。そしてまた春樹。

山崎元さん。「戦後日本経済史」(野口悠紀夫)、「行動経済学」(友野典男)、「日本語の作文技術」(本多勝一)、三冊共未読。

戦後日本経済史 (新潮選書)
野口 悠紀雄
新潮社 (2008/01)
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福澤一吉さん。議論というものについてのモデルの話がおもしろそう。とりあえず、ご本人の「議論のレッスン」を読んでみよう。

議論のレッスン (生活人新書)
福澤 一吉
日本放送出版協会 (2002/04)
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買ったプレジデント自体はこれ。

  

Jeff Bezos のインタビューがすばらしい件

by tanabe on October 17, 2007

DIAMOND じゃない原書の方の Harvard Business Review 2007.10月号にJeff Bezos のインタビューが載っている。これがもうすばらしい内容すぎる。

Amazon の Jeff Bezos だからといって、インターネットの行く末は?というような内容中心ではない。HBR だからというわけでもないだろうが、地に足のついた真摯な受け答えでありながら、かつ内容は示唆に富むというもの。Web をインターフェイスに販売をしているというビジネスの視点で非常に中身のあるインタビューになっている。

Amazon.co.jp でも見つからず、一冊単位で買うことはむずかしそうなので、面白かったところを訳してエントリしてみる予定。

追記。書いた。http://blog.hacklife.net/archives/51224167.html

  

あれ、HBR 予告と違ってない?

by tanabe on October 10, 2007

HBR 11月号が来たんだけど、前号巻末の掲載論文予告と大部分が違っているような気がする。

野中郁次郎さんとか門永宗之助さんとかのを期待してたんだけど、アテが外れたなぁ。まぁ、今号読む限りじゃ、過去記事の再編集ばっかりみたいだからどうでもいいけど。いずれにせよ、定期購読者泣かせの回なのは間違いない。

  

リーンソフトウェア開発がとっても良書

by tanabe on March 05, 2007

リーンソフトウェア開発を読んでいる。長い間書棚の肥しにしていたのだけど、正直バカだった。すばらしい内容。

読みながら、デブサミ2007での羽生さんの講演を思い出す。「スタロジはウォーターフォール」はある意味でブラフで実は最もLeanに近いところを狙っているよなぁと思う。語義に惑わされず原義の宣言に戻れば agile でもあるし。ウォーターフォールってのは、単に「イテレーションベースでインクリメンタルな開発はしていない」っていう手法の問題だよな。

読んでて初めて気づいたけど、リーンソフトウェア開発って平鍋健児さんが共訳している。何にしてももっと早く読んでおけばよかったな。

リーンソフトウエア開発〜アジャイル開発を実践する22の方法〜
メアリー・ポッペンディーク トム・ポッペンディーク 平鍋 健児 高嶋 優子 佐野 建樹
日経BP社 (2004/07/23)
売り上げランキング: 99757
  

Ruby on Rails 入門を購入

by tanabe on August 08, 2006

くまくまーの中の人が書いた Ruby on Rails 入門が気になっていたので、仕事帰りに本屋で購入。(既発の Rails 本が全部置いてあった職場近くの本屋は正直どうなんだとちょっと疑問に思った。それだけ Rails が浸透したのか?)

肝心の本を2時間くらいで読了したわけですが、かなり良い出来でした。2冊目の Rails 本に一押し。1冊目なら、大人しく AWDwR の前田修吾さん監訳版なんかを購入しておいた方が安全と思われます。

それにしても、舞波はさておき、ActiveSupport から始まる Rails の解説というのもこだわりが感じられ、とにかく今この瞬間の Rails を切り取った本としては最高に面白い仕上がりでした。「 Pragmatic Programmers の Ruby 本 + レシピブック」みたいなかんじで、「 AWDwR + 舞波本」というかんじのポジション取りに最適。

Ruby on Rails入門―優しいRailsの育て方
西 和則
秀和システム (2006/08)
  

頼まれたこと − やるべきこと = 断ること

by tanabe on July 29, 2006

タイトルがすべてなんだけど、To Do はただ把握すればいいってわけではなくて、To Do を管理するってことは、

  1. まだやってないことをすべて並べてみる
  2. 必ずやらないといけないこと。やる価値のあることを選ぶ
  3. 1 から 2 を引いて、残りをすべて断る

ちなみに黙殺できるようなものは最初から引き受けない。

1 をやったら To Do 管理だという誤解があるけど、それだと時間の管理にならないってこと。

わかっちゃいるので、あとはやるだけなのだ。

だから片づかない。なのに時間がない。「だらしない自分」を変える7つのステップ
マリリン・ポール 堀 千恵子
ダイヤモンド社 (2004/06/11)
売り上げランキング: 30,299
  

岡本吏郎さんの「会社の数字がカラダでわかる!」

by tanabe on July 28, 2006

岡本吏郎さんの「会社の数字がカラダでわかる! 〜会計するカラダのススメ〜」を読みました。

基本的には会計の本なのですが、それ以上に会計の話を通して、マネジメントということについての思想を伝えようとする。そんな本です。

管理するのでも、コントロールするというのとも少し違います。何もかもを自分が手を出すことはできない中で、正しい方向へ行っているのか否かというのを、どのように判断するのか。そのための知恵が詰まっています。

これはまさに知恵の本です。とにかく実際に必要なことは何か。会計ということが現実的に役に立つためには、一体何をする必要があって、何はする必要がないのか、それはなぜか。そんな「知恵」が書かれています。

一方で、会計についての「知識」はとても手薄です。必要ないから薄いのでしょう。試験に答えるための会計を知りたいからとか、知らないと恥ずかしいから、というような動機でこの本を読むのはオススメしません。(いや、ある意味、そういう人こそ本書を読んで考えた方がいいんですけどね。)

まー、それにしても、この岡本吏郎さんの書く内容を読むと、なぜかいつも羽生章洋さんの文が頭に浮かんで仕方ない。地に足の着いた主張。あくまで基礎を徹底した結果の他とは一味違う知見。どうにも受ける印象というか、色合いが似ているのです。

たとえば「DB の仕組みを正しく理解して適切な SQL を書かないから、パフォーマンスも出ないんだよ!」みたいな話と、「経理はまずは徹底した実査なんだよ。会社にとっての入出金の現実の姿が見えずに会計がわからんとか言ってちゃダメなんだよ!」みたいなのは、ジャンルが違うだけで姿勢は同じ。しかも会計をカラダで理解しろ!って。いつ「量は質に〜」て出てくるかとひやひやしながら読みました。

じゃ、最後に一節を引用。

粗利額と人件費の二つの管理。これが経営の基本だ。とどのつまり、経営の管理はこれだけ。これ以上でも、これ以下でもない。
経営とは、この二つの数字とそのバランスを見ていればよい。当然だが、粗利額は1円でも多く稼ぎ、人件費は抑える。
ただし、人件費の管理は絶対額ではない。割合で管理する。図の限界利益を分母として、人件費を分子とした割合で見る。これを労働分配率という。
この労働分配率を低くする。妥協せずに低くする。そういう経営ならば儲かる。これだけだ。これは決して人件費の絶対額を低くすることではない。給料は同業他社よりも支給する。しかし、労働分配率は低いというのが理想。そのためには分母の限界利益を多くすればよい。つまり、一人当たりの限界利益を多くすればよいことになる。

そして、そうこう思いながら、Bloglines でフィードを読んでたら、こんな話が。
夏のはぶにっき コストのはなし
うーん、おもしろい。

  

「ひとつ上のアイディア」

by tanabe on November 16, 2005

今日、本屋で大量購入したものの、この本はあまりにキャッチーすぎて、しかもテーマが狙いすぎていて、絶対駄本だと思い通りすぎていました。

どうやら違ったようで。

さっそくAmazonで発注します。

ひとつ上のアイディア。
眞木 準
インプレス (2005/11/02)

  

「国家の自縛」で佐藤優の類稀な話力を再認識。

by tanabe on October 20, 2005

つくづく佐藤優は日本屈指の語り部だと思う。10行も読めば新しい情報が書かれている。内容のある文章の比率が非常に高い。濃い。次から次へと文学、歴史、自分の体験からの引用が出てくる。

言っていることが正しいかどうかは好き好き、価値観の問題となる部分もあるが、間違いなく今最高に知性と教養のある話をできる人の一人だ。

そして、ビジネスをする人間にとってもプロフェッショナリズムとは何かを学ぶ飛び切り上等の教材である。

例えば、こんな話がある。「国家の罠」を読んだ人にはお馴染みの東郷氏に関する言及である。

要するに東郷さんは精神も行動様式も「貴族」なのであって、金や人事に固執せずに、自らが国益と信じる価値を実現するためには、私のようなノンキャリアの若手官僚も活用するし、歴代総理や鈴木宗雄さんの前で平気で土下座することができる。本質的なところでの矜持があるから、小さなプライドを捨てることができたのだと思うのです。(P28)

さらにこんな文もある。

 対中外交については、総理が靖国参拝を行った場合、中国がどのような反応をするか、想定され得る最悪の状況を含むきちんとしたシミュレーションを行って総理に伝えることを怠った。漏れ伝え聞くところでは、一部の外務省幹部は「小泉総理は嫌な話を聞く耳を持たない。怖くて伝えられない」などという無責任な発言をしている。嫌がられても、怖くても職業的良心に従って、専門家としての見解を伝えることが官僚の本義なんです。(P72)

プロフェッショナルの取るべき態度という抽象的な哲学を伝えるのにも具体的な例を挙げて実に上手く説明をしている。

以下、見識が優れていることはもちろん、類稀な話上手の技を引用しておく。

(靖国について) 近代国民国家が存在する限り、戦没者の顕彰の問題は残るのであって、要はそれを排外主義と(ショービニズム)のシンボルにしないことなんです。日本の愛国主義、正統なナショナリズムは排外主義とは縁がない。この伝統を維持することです。(P61-62)

ロシア人、イスラエル人は、過去の戦争について自己中心的な「物語」を作っている。同時に彼らはそれが「物語」で、他民族が別の「物語」を作っていることを理解しているんです。だから靖国神社に対して特段の抵抗はないんですよ。(P70-71)

ロシア人は、誤報(misinformation)として処理されるような情報操作(disiformation)は、情報操作としては三流以下と考えるんです。一級の情報操作とは、事実関係については確かで、事実の一面を強調し、それにある種の評価を加えることにより、結果として、情報操作を行う側に有利になり、利害関係が対立する側に不利になるコミュニケーション体系が確立することです。(P137)

 一九九一年夏にゴルバチョフ大統領を一時失脚させたクーデター未遂事件の時、首謀者のソ連共産党守旧派の幹部連中というのは、とんでもない連中だというイメージが日本ではあるんですけれども、私は周辺で見ていて、国家に対してはすごくまじめな連中だった。彼らはゴルバチョフ路線でそのままいったらソ連はなくなってしまうと見通していた。確かにそうだったんですよ。ペレストロイカ(再編)というのはソ連国家を強化するためでしょう。社会主義を放棄するためではないと。
 ところが主権ソビエト共和国連邦なんて形で社会主義を外した形の連邦条約を作ったら、ソ連国家はなくなるという危機感にかられて彼らは決起したんです。自分たちのやったことはぜんぜん悪いと思ってないんですよ。だから謝らない。エリツィン元ロシア大統領が「ごめんなさいと言ったら許してやる」と共産党幹部たちに言ったら、ペッといって全然謝らない。ところが頭を下げたこともあるんです。タイピストとか運転手とか共産党にいたでしょう。彼らは政治と関係ないから再就職させてやってくれと、それで頭を下げたんです。(P139)

領土問題については国際社会に「ゲームのルール」があります。わが方が実効支配をしてる場合には領土問題と認めないことなんです。領土問題と認めたら、それはその領土を手放す第一歩になるんです。そういうルールなんです。しかし、向こうが実効支配してるものは「領土問題である」といって拳を振り上げる。どの国もそういうやり方をするんです。ですからそのルールブック通りにやればいいんですよ。国際スタンダードでは、向こうが係争問題と言っていてもこちらが実効支配している以上はこれは問題だとか、いろんなキツい言い方をされても、それは聞く必要はないんです。
 ですから、中国は存在しない尖閣問題に対して大騒ぎをすることによって日本が領土問題と認知したところでシメシメということなんですよ。要するにタチの悪いテキヤさんがそこの縁日を全部とりたいときに、最初から「全部よこせ」とは言わないわけです。「ちょっと椅子を一つ置かしてください」と言うわけですよ。椅子を一つ置かしたらその後ぐーっと入ってくる。それが領土問題として認知させることなんですよ。(P146)

 

国家の自縛
国家の自縛
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佐藤 優
産経新聞出版 (2005/09)
  

「国家の罠」の佐藤優に新刊が!

by tanabe on October 20, 2005

梅田望夫さんも絶賛されていた「国家の罠」の佐藤優の新刊が出ていたので即買い。

国家の自縛
国家の自縛
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佐藤 優 斎藤 勉
産経新聞出版 (2005/09)

さぁ、気合を入れて一気に読むぞ〜。楽しみ。

なお未読の方は、「国家の罠」もぜひぜひどうぞ。オススメです。

国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて
佐藤 優
新潮社 (2005/03/26)
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Hands on Science: Get in Gear

by tanabe on August 08, 2005

めずらしく単なる商品紹介。

いや、これ面白いんですよ。機械いじりが好きな人はついついはまりますよ。

Hands on Science: Get in Gear (Hands-On Science (Innovative Kids))
Sholly Fisch Mark Oliver
Innovative Kids (2002/10/01)
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Amazonの紹介文のとおり、

『Get in Gear』の特徴
・本物の電気モーターと交換式バッテリー
・実際に使える19個の歯車と部品
・たくさんの装置を自分で組み立てられる
・色分けしてあるので組み立てが簡単
・読みやすい文章
・歯車に関する驚くべき事実
・らせん形のデザインが作れるPlanetary Picture Producer[遊星歯車を使用するデザイン定規のような作図キット]
・自分だけのオリジナルデザインが作れる
・歯車や部品をすべて収納できる便利なトレイ

てことで、大小のギアを組み合わせて動くのを眺めて一人にやにやするというネクラなおもちゃなんですが、特徴に「・自分だけのオリジナルデザインが作れる」とあるように最後のページではフリーレイアウトでギアやらなんやらを組み合わせられるようになっていて、これが楽しいです。

対象年齢はたぶん結構小さい子対象なんだろうけど、疲れた頭で休憩代わりにウィンウィンやってると休憩で済まなくなって困ります。

※一応、英語の本ですが、図解だけ見てれば簡単に組み立てられます。(というか、とても単純なんで目の前にギアがあって、完成図が見られれば大人ならすぐ作れちゃいます。)

  

佐藤優氏の「国家の罠」をどう読むか。

by tanabe on July 07, 2005

梅田さんある編集者さんという異業種のお二方が共に絶賛していたため、ずっと気になっていた一冊。一日でむさぼり読んでしまったので、感想など書いてみる。

 

近年の最高傑作。
その精緻な筆力にぐいぐいと惹き込まれた。

痛烈にスリリングでエキサイティング。
十二分にエンターテイメントとして成り立つ要素を備えながら、あくまで知的で重厚な内容。
それでいて絶妙に読みやすい文章のバランス。

最初から最後まですべての文章が構想されてから書かれたのではないかと思う(実際にそうかもしれない)圧倒的な統一感。

真実の是非はともかく、日本の外交にこういう思想を持った人物が居たということはぜひとも知っておくべきだと思う。

佐藤優氏の「国家の罠」は、他の本を中断してでも読むべき本だ。

鈴木宗男議員の逮捕に絡め、前後の対露外交、北方領土問題、そして外務省の外交スタンスなどを語る前半部、
そして、この本の醍醐味とも言える検察との詳細なやりとりの記録となる後半。
一貫して語られる佐藤の情報収集・分析者としての職業観。
そのすべてが鮮烈な印象を与える。

国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて
佐藤 優
新潮社 (2005/03/26)
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以下、ネタバレ(と感じるかもしれないこと)を含みます。

 

 

ただ、気をつけなければいけないなと感じるのは、「国益に殉じた国士」という佐藤氏の印象はあくまで「国家の罠」というノンフィクション小説の主人公・”佐藤優”に対して抱いたものだという点だ。

この意味では、この本に書かれていることは真実だろうし、”佐藤優”は紛れもない愛国者なのだろう。

一方で、この本の著者である佐藤優氏については、この本の言い分をそのまま受け取ってしまうのは、情報屋である佐藤氏へ失礼とも思える。

実際、彼の現在の立場は控訴中というものだ。書中で佐藤氏自身が述べている「ヒュミントの原則」から言っても彼の言はそのまま信じるべきではない。

情報の世界で、ヒュミント(人間からとる情報)の原則は二つである。第一は、情報源がこちら側が関心をもつ情報を知ることができる立場にいるということだ。そして第二に、情報源が自分の得た情報を私に正確に教えてくれるということだ。(p19)

佐藤氏は情報を正確に教えることを読者に保証する立場にいない。

私には残念ながらこの書の内容を逐一裏付けをとれるようなパイプはないのだが、最低限論理的な思考により真実を求めるのは、最高に面白い小説を提供してくれた著者に対する礼儀のような気がしている。

 

いくつか読後に気にかかった点を。

佐藤氏が国益を最重要視したという印象は避けられないように書かれているのだが、その国益の基準となる思想についてはほとんど語られることがなかった。

たんに本の主旨から外れるということや、ページ数の制限という問題は明らかにあったと思う。それでもあまりにこの件に関する具体的言及は少ない。

意地悪い見方をすれば、国益へ殉じたという点を強調しておけば、とにかく日本のためにがんばった人。という印象だけを植え付けることができる。

本当に大切なのは、なにがどう国益となるのか?という佐藤氏(を含む当時の外務省)のヴィジョンであったと思う。これが本来、国益と呼ぶべきものでなければ、それはやはり”背任”だろう。(書中での背任とは意味が異なる。そして逮捕されるべきでもないだろう。)

どうも国益というきれいな響きを使って、うまいこと本全体を通しての正義をコントロールしているな、というのは正直な印象として受けた。

これが佐藤氏流のレトリックなのかもしれない。という疑念と言ってもいい。

レトリックに関する佐藤氏の説明を引用しておこう。

同じことでも言い方によって相手側の受け止めは大きく異なる。例えば、「お前、嘘つくなよ」と言えば誰もがカチンとくるが、「お互いに正直にやろう」と言えば、別に嫌な感じはしない。伝えたい内容は同じである。(p175)

 

そしてもう一つ、検察や公判の結果が世論に引っ張られる傾向があるという本書の指摘は興味深い。

国策捜査の適用基準のハードルが近年下がってきているという話に続いて、このように述べられていた。

「そうだろうか。あなたたち(検察)が恣意的に適用基準を下げて事件を作り出しているのではないだろうか」
「そうじゃない。実のところ、僕たちは適用基準を決められない。時々の一般国民の基準で適用基準は決めなくてはならない。僕たちは、法律専門家であっても、感覚は一般国民の正義と同じで、その基準で対処しなくてはならない。(後略)

この理屈に従えば、世論に佐藤はシロだという声が強くなれば、検察も司法も強いて佐藤氏を有罪にするべき理由がなくなってしまう。(少なくとも国策捜査としては。面子云々は残るだろうが、それは末節の論理だ。)

そして、この「国家の罠」を読むことによって醸成される気持ちは、まさに「佐藤はシロだ」なのである。

彼は国益のために奔走した愛国者であり、情報収集・分析のプロフェッショナルとしての職業倫理をもった男である。そんな彼が多少、イレギュラーな操作はあったかもしれない(なかったかもしれない)が、いずれにせよ私腹を肥やすための犯罪に手を染めるはずがない。

いったい誰が愛すべき”佐藤”を憎むことができるというのだろう?これが本書の読後に多くの読者が得られる偽らざる感想なのだ。

控訴中の佐藤氏にとってこの本は、公判へ向けての一つの有効な戦術であるというのは穿ちすぎた考えだろうか。

 

上記の二つの見方は単なる可能性であり、あえて意地悪に想定したものだ。別にこの見方が正しい!などと言い張るつもりはまったくない。

ただ、確実に言えるのはこの本の中の佐藤氏はきれいすぎるということだ。

たしかに、彼の思想としては書中の言の通りなのかもしれない。(これがすべて口からでまかせなら、むしろ歓迎すべき大作家だ。)

しかし、実際の彼の仕事はここまできれいに意思を統一してできたものだったのだろうか?
そうは思えない。それだけで通用するような世界に佐藤氏が生きていたのであれば、三井物産は正攻法のみで押してきただろう。

あまりにきれいで、しかも全体にそれが整いすぎている。情報の質として言えない話が多くあるというのはわかる。
ただ、それにしても佐藤氏自身に関する汚い話(やむをえないものも含め)があまりになさすぎる。

これは鵜呑みにはできないな、というのが心証なのである。

プロフェッショナルな職人は、自分の仕事については正直なものだ。悪いことも端的に伝える。少なくとも技術畑の職人はこれがモラルだ。

その意味で、この最高のエンターテイメントと魅力的な主人公・”佐藤優”と現実の世界に生きる生身の佐藤優氏を混同するのは、注意した方がいい。
(これは佐藤氏の語る外務省のロジックや検察のロジックについても言える。一つの見方を伝えてはいるだろう。ただ、すべてではないと思う。この辺り、今後詳しく知っていそうな知人に別の側面を聞いてみたい)

  

ベルカ、読了。

by tanabe on June 29, 2005

先日、紹介した「ベルカ、吠えないのか?」を読み終わりました。

非常に味のある、いい小説でした。走り続けるイヌたちに負けないくらいの疾走感が文章に溢れています。

まぁ、ニンゲンの言葉で表現するのも無粋な気がするので、ぜひ体感してみてください。

アマゾンのステータスが、前回紹介時の品切れからユーズドのみの取扱いになってますね。ぼくの買った近所の本屋のように、今ならまだ置いているところもあると思うので、よかったら探して読んでみてください。この本には、文庫よりもこの重厚な装丁と厚みが似合います。

  

「すごい会議」の本質を読み解く。

by tanabe on June 24, 2005

すっかり大橋禅太郎氏の「すごい会議」にやられてしまった。

タイトルに騙されずに読み解けば、この本の本質は会議のハウツー本ではなく、マネジメントのフローを作ることにあるのがわかる。実践するマネジメントを会議によりドライブするのだ。

問題解決の方法には他にも有力なアプローチがある。当初仮説からスタートし、ファクトベース、MECEといったツールで問題を掘り下げるいわゆるマッキンゼー方式は有名だ。ただ、現実に企業で適用することを考えたとき、中々周囲の人間との折合いが難しかったりもする。特に事実を重視して問題を解決していく文化がない場合は障害も多い。また、日々現われる課題の一つ一つを徹底的に分析しきるのは物理的に困難だ。

そういった実情を踏まえて、「じゃあ、現実的にどうやって組織で問題へ立ち向かうか?」という重要な答えの一つがこの「すごい会議」には書かれている。

その基本信念は「成果の出ない会議は無意味であり、目の前の課題をマネージするのに必要ないことをやるのは無駄だ」という考えだろう。

これを、「それじゃあ、どうやったらすべての会議で成果を出していくことができるか?」と考えた結果が「すごい会議」なのだ。

だから、すごい会議を本の手順で徹底してやれば、必ず成果に結びつくようになっている。そして、その成果は会議室を出たらすぐにアクションへ移せるレベルへと詳細化されている。

会議自体がマネジメントの一環であり、会議を通して問題をマネージしていく。だから、会議そのものが成果になってしまう。これが、すごい会議マジックだ。

ここを見誤って、「会議を上手に運営するためのツール」を探してしまうと、いまいち本の価値がわからないかもしれない。この本は、その前提となる会議の意義を問い、覆すものだからだ。そんな人は、あなたがツールを探しているような「会議」は何をアウトプットするのか、それをもう一度考えると本質へ近づけるかもしれない。

すごい会議−短期間で会社が劇的に変わる!

私は「問題を解決する場」としての会議はあまり評価していない。しかし、このマネジメントの役に立たない会議をやるのは無駄なので、いっそ会議自体をマネジメントの一環にしてしまおうというアプローチには非常に共感する。

Amazonの書評で不評が目立ち、かなり不本意だったので援護射撃をしてみた次第。

  

ベルカ、吠えないのか?

by tanabe on June 21, 2005

向井秀徳日記で気になる本の話を読んだ。「ベルカ、吠えないのか?」という古川日出男の小説だ。

6月11日

文藝春秋の方から、面白いから読んで下さい、と送って頂いた本を読んだ。
古川日出男という人の「ベルカ、吠えないのか?」という小説である。
これ、最高に面白い。電気ビリビリ。ショック・ショック・ノリノリ。

第二次大戦からはじまる軍用犬の系譜を軸に壮大に展開される話。
文体が全部断定調でカッコイイ。「犬は疾走する。そして死ぬ。1958年。犬は死ぬ。」こんなカンジがずっと続く。それがイイ。それはとてもカッコイイ。ノっている。文章が。

ここ最近小説にコなかったが、コレには久々にヤられた。キた。

私はすべての職業人は芸人だと思っている。自分の秀でる一芸を披露して対価を得ているのだと思っている。なので、作品には芸を求める。芸となる何かがあれば、それで満足する。サービスとしての泣きも純愛も青春もいらない。ただその人物の生き様を感じる芸を求めるのだ。

そして、この「ベルカ、吠えないのか?」の紹介にはひさしぶりに芸を期待できた。タイトルがまたいい。

読みもせずにうだうだ言っていても仕方ないので、買って読むことにする。

それにしても、一目でジャケ買いしてもいいと思った本は本当にひさしぶりだ。

ベルカ、吠えないのか?