しごと観シリーズ コモディティ化するソフトウェア

by tanabe on January 23, 2008

ソフトウェアエンジニアの価値はシステムを作れることなのか。売れるシステムにこそ価値があるのだとしたら、そこへどんな貢献ができるのか。今、成果として何を生んでいるのか。いなくなったら、本当に困る存在か。替わりのきかない役割があるとしたら、それは一体なにか。10年後にも価値を生み続けるための競争力は、今やっていることの延長線上にあるのか。

知識労働者たるものは、自らの組織よりも長く生きる。したがって、他の仕事を準備しておかなければならない。キャリアを変えられなければならない。自らをマネジメントすることができなければならない。つまるところ、これまで存在しなかった問題を考えなければならない。

キャリア・ビジョン

勉強が好きな少年も、野球好きの少年や将棋好きの少年や音楽好きの少年と同じような「人生の厳しさ」に直面するようになる。

それが「次の10年」なのではないか。

そんなことを最近よく思うのだ。

たとえば僕の場合でも、本を読んだり勉強したりモノを書いたり、そういうことは子供の頃から大好きだった。でもそれだけでは食えない。いま僕の事業を、ひいては生計を支えているのは、僕の「勉強能力」ではなく「対人能力」もっと言えば「営業能力」なのである。

「これからの10年飲み会」で話したこと、考えたこと

「手に職を付けたい」と言ったところで、文系で就職した日本の大学生が、海外の理工系大学でIT教育を受けてきた人材に技術力でかなうわけがありません。スタート地点が違うわけです。

最後に一言

アマチュアという言葉の反対語は言うまでもなくプロである。

「mass amateurisation」の大きな流れは、今現在何かの領域でプロを自認して飯を食っている人にとって、膨大な新規参入者(アマチュアと言ってもいいし、エンパワーされた人々と言ってもいい)が、ものすごく大きな脅威になる。これこそが「mass amateurisation」現象の本質であるという問題提起である。まったくその通りだと思う。

第一タイプは、既存の体制によく親和して、何かを成し遂げようとするときには「しかるべきプロセス」の中に自然に身を置いて、その中で着実に経験を積んでいくことを喜ぶ(厭わない)というタイプである。日本のエスタブリッシュメント層の大半は、こういうタイプの人たちである。

第二タイプは、何かを学ぶのも何かの経験を身につけるのも自己流。学校や大組織のような秩序立ったところにはあまり親和せず苦労するが、混沌とした社会の現実にぶつかる経験の中から、独力で頭角を現していくタイプである。

こういう第二タイプの才能がエンパワーされて世に出やすくなる現象こそが、「mass amateurisation」なのではないだろうか。

でも、ジャーナリズムやプログラムの分野に限らず、音楽の分野、映像の分野、ありとあらゆる知的作業のための環境が低コスト化、コモディティ化するにつれて、第一タイプのエスタブリッシュメントたちを、第二タイプの在野の実力者が脅かし始めるという構図がいたるところで現れてくる。それが21世紀の「仕事の現場」なのではないだろうか。

ネットがもたらすプロフェッショナルへの新しい道

「グローバルに仕事が移転する時代では、ある時首を切られて、それ以降全く仕事がなくなってしまう、ということが十分起こり得る。

なんというか、海辺の絶壁を想像してしまう。水際ぎりぎりにぽっかり横穴が開いていて、その中で安穏と暮らしていると、だんだん潮が満ちてきて、海の水がじわじわと穴の中に入ってくる。今にまた潮が引いて、元通りの安穏とした暮らしに戻れるのではないかと思って耐えているが、ついに水は腰の辺りを超え、首あたりまで来る。どこかで決意して、荒海に泳ぎ出て、さらに上のほうにある穴によじ登った人だけが生き残ることができる。」

まわりの連中よりも何百倍も何千倍も優秀なプログラマーというのは居るものだ。そういう能力を持った人は大企業にも勤めている。でも大企業だとそういう人のインパクトが薄められる。そういう才能をきちんと雇用し、大企業の中でもちゃんと活かせ、そうすれば、顧客満足もうんと上がる。同じ成果を低コストでということばかりでなく、そういうプラス効果を考えなきゃダメだ。

年収500〜1000万円の仕事がなくなっていく米国

全く別の観点から、元オラクルCOOのRay Laneのインタビューは、グローバル化がもたらすアウトソーシングではなく、IT化のゴールとしての「リアルタイム・エンタープライズ」が実現することと人員削減の関係についての未来像を提示している。

20世紀型の「人の多い」会社から、もっともっとビジネスプロセスを自動化し、無人化していくのが、21世紀型企業のイメージだと、Ray Laneは言う。

シリコンバレーという場所は、アメリカの中でも、変化が最もラディカルに表出する場所なので、ここに住んでいると、よくも悪くも、未来の仮説が増幅した形で、僕らの前に姿を現す。ここに住むほぼすべての人たちが理解しているのが、自分たちの子供の時代になったら、人をめぐる競争環境がますます激化するという事実だ。

世界規模の人材競争に日本の若者が生き残るには

米国300万プログラマーのピラミッド構造

まず、「Software programming is the iconic jobs of the Information Age, but not all programmers are created equal. Here’s the breakdown of software jobs and their prospects」と書かれているように、この図では、ソフトウェアに関する仕事のピラミッドを6階層に分類し、それぞれの階層ごとの今後について一覧したものである。ちなみに、米国全体では約300万人が、このピラミッドにどこかに位置している。

まず、頂点に位置するのが、 Architect階層(第1階層)である。「A few thousand tech visionaries sketch out entire systems to handle complex jobs.」というわけで、この階層は数千人の世界。例としては、BEA SystemsのChief ArchitectのAdam Bosworthが挙げられている。年収は15万ドルから25万ドル。アウトソーシングの影響はいっさい受けない。

さて、次が、 Researcher階層(第2階層)である。ここがイノベーションのためのカギで、米国にとっての生命線である。ここに2万5000 人くらい居るとBusiness Week誌は推定している。年収はアカデミアだと5万ドル。在野だと19万5000ドル。基本的にはこの階層の将来は明るいが、この仕事もオフショアに出て行く可能性がある。

そして、Consultant階層(第3階層)。企業のテクノロジー・ニーズについてアドバイスし、新しいソフトウェアをインストールしたり、新しいアプリケーションをスクラッチから作ったりする、ビジネスに精通したコンサルタント。年収は7万2000ドルから20 万ドル。この階層の将来は明るい。 次が、Project Manager階層(第4階層)。グローバルソフトウェア工場の重要な歯車。異なる国、異なるタイムゾーンで働くチームをコーディネートして、仕事を時間通りに完遂する仕事。これに関連しては、本連載2月12日「グローバル化が進む分散開発体制の今」も合わせてご参照。年収は9万6000ドルから13万ドル。ここでいいマネージャーになれば、仕事は安泰。

そして下から2つ目が、Business Analysts階層(第5階層)。ビジネスニーズからプログラマーのためのスペックに落とす人。年収は5万2000ドルから9万ドル。ビジネスセンスがあって、コミュニケーションスキルがあるプログラマーにとって比較的安全な場所(仕事が外に出て行かない)。

そして最後が、Basic Programmers階層(第6階層)。「The foot soldiers in the information economy」(情報経済における歩兵)で、アプリケーション用のコードを書き、アップデートして、テストする。年収は5万2000ドルから8万 1000ドル。仕事が海外に出て行ってしまうという意味では、ここが一番危ない。この階層における仕事の18%が、6年以内に、オフショアに流れていくというのがフォレスターの予想。

オフショア開発で明暗別れるプログラマーのキャリア

Gartnerによると、IT関連職は以下4つの傾向による影響を受けるという。

  • 技術インフラ/サービス関連業務は、エンドユーザーの組織では減少し、逆にサービス/ハードウェア/ソフトウェアベンダーでは増加するだろう。しかし、その業務の多くが開発途上国から提供されることになる。
  • ビジネスインテリジェンス、消費者向けのオンラインサービス、コラボレーション技術に従事する人の数は、ユーザー企業、システムインテグレーター、コンサルティング企業の間では増加するだろう。
  • 競争力のあるビジネスプロセスやプロセスオートメーション、業務プロセスの設計ができる人が求められるようになる。プロセスの設計/管理分野は、有望な分野になるだろう。
  • 「無形の財産」を管理する能力や、地理的に分散し、作業能力も文化も異なる複数の関係者を管理する能力が要求されるようになるにつれ、関係管理や外注管理に関するスキルが重視されるようになるだろう。
「技術オタクの時代」が幕を閉じる?--米調査