Jeff Bezos が語る Amazon は何を考え続けているのか?

by tanabe on October 19, 2007

Harvard Business Review October 2007 に Amazon の創業者 Jeff Bezos のインタビュー (The Institutional YES) が載っている。Amazon の文化、戦略の生まれる背景を解き明かそうとした良インタビューだった。

かつて梅田望夫さんは「コンピュータ産業のパラダイムシフトを象徴するアマゾンの戦略」という良エントリで「アマゾンがテクノロジー企業に変貌しようとしている」と指摘していたが、このインタビューを読むとそのテクノロジーの取り込みも手段の一つでしかなく、Amazon はあくまで「Amazon の顧客は誰か?その人たちは何を求めているか?」をひたすら考え、忠実に実装していく企業であることが読み取れる。これはいわゆる「ネット企業」「テクノロジー企業」に特異な視点だろうか?むしろ、古典的といってよい王道の視点だろう。

そして、そこで語られる基本哲学は変化が激しいと言われる Web を舞台にビジネスをするからこそ、特に気をつけるべき視点が大いに含まれている。

まずは、Amzon では、ビジネスを長期的な視点で見ており、短期的な考えに捉われることを避けている。それはたとえば種を植えて木へと生長するのを待つようなことである。という文脈での質問から。

Do you know when you're planting of those seeds that it's, say, an acorn and it's going to turn into an oak? Do you have a stron vision of how things will materialie? Or does the shape emerge along the way?

We may not know that it's going to turn into an oak, but at least we know that it can turn out to be that bin. I think you need to make sure with the things you choose that you are able to say, "If we can get into this to work, it will be big." An important question to ask is, "Is it big enough to be meaningful to the company as a whole if we're very successful?"

Amazon で重視されるのは、うまく行くかどうかという姿勢ではない。それが本当にうまくいったとしたら、ビジネスになるのかどうか? Amazon に対して与えるインパクトは十分に大きいものなのか?その質問が重視される。

Amazon が手がけるビジネスを見た外部の人は最初の頃、「なぜそんな新しいことをするのか?」という感想を抱く。なるほど。それは正当な疑問だろう。それに対して Bezos はこのように語る。

But they all have at their heart one of the reasons that it's so difficult for incumbent companies to pursue new initiatives. It's because even if they are wild successes, they have no meaningful impact on the company's economics for years. What I have found - and this is an empirical observation; I see no reason why it should be the case, but it tends to be - is that when we plant a seed, it tends to take five to seven years before it has a meaningful impact on the economics of the company.

そのようなことを言う人たちは、新しい挑戦を恐れるから会社を助けるような大きな成功ができないのだ。Bezos はこれまでの経験から断言する。「なぜかはよくわからない。でも、これだけは言える。企業にとって有意義な結果が出るまでにはたいてい着手してから5〜7年は必要だ。」

That does require people, inside and outside, to keep the faith. How do you have the confidence that the investment will ultimately pay off?

It helps to base your strategy on things that won't change. When I'm talking with people outside the company, there's a question that comes up very commonly: "What's going to change in the next five to ten years?" But I very rarely get asked "What's not goning to change in the next five to ten years?" At Amazon we're always trying to figure that out, because you can really spin up flywheels around those things.

ただ、そのような長期的な視点での挑戦を続けるのは内外が信念を持ってあたる必要がある。Amazon では変化するものではなく、変化しないものを対象に戦略を立てることで短期的な心配に振り回されないようにしている。問い続けるべきは、「この5〜10年で何が変わるのか?」ではなく、「この5〜10年で変化しないものがあるとしたら、それは何か?」なのだ。

では Amazon はいったい何が変化しないと考えているのか?それが続いての質問だ。

What are some of the things you're counting on not to change?

For our business, most of them turn out to be customer insights. Look at what's important to the customers in our cunsumer-facing business. They want selection, low prices, and fast delivery. This can be different from business to business: There are companies serving other customers who wouldn't put price, for example, in that set. But having found out what those things are for our customers, I can't imagine that ten years from now they are going to say, "I love Amazon, but if only they could deliver my products a little more slowly."

Amazon はコンシューマビジネスであり、つまるところ「顧客についての深い理解」こそがコアとなる。「顧客が何を重視するか?」に焦点をあてればいい。10年後の顧客もけして「Amazon は嫌いじゃないんだけど、もう少し配達が遅ければいいのに。」なんて言いだすことはない。

Another thing that we believe is pretty fundamental is that the world is getting increasingly transparent - that information perfection is on the rise. If you believe that, it becomes strategically smart to align yourself with the customer. You think about marketing differently. If in the old world you devoted 30% of your attention to building a great service and 70% of your attention to shouting about it, in the new world that inverts.

そして、もう一つ変化しないものがある。「世界は見通しやすくなっていく」という傾向だ。これからも情報はより手に入れやすくなっていく。そこから考えると、そこそこのサービスを作ってそのすばらしさを喧伝することに力をそそぐよりも、本当にすばらしいサービスを作りこみ、それを少しだけ宣伝してやるほうがいい。あとは顧客がそれを理解し広めてくれる。

A lot of our strategy comes from having very deep points of view about things like this, believing that they are going to be stable over time, and making sure our activities line up with them. Of course there could also come a day when one of those things turns out to be wrong. So it's important to have some kind of mechaninsm to figure out if you're wrong about a deeply held precept.

Amazon の戦略はすべてこのような基礎的で深い洞察から始まり、それが長期的に続くと信じ、プランを立て実行する。ここで重要なのは、最初の視点が誤っていた場合には途中で気が付けるような仕組みを作っておくことだ。

本文はここからさらに API 提供をしている理由や、なぜマーケットプレイスや代理店としての販売を手がけるのか、顧客中心主義という Amazon の文化についてのさらに詳しい質問へと展開される。

部分部分でおもしろかった発言をピックアップしてみる。

But I thought to myself, we don't make money when we sell things; we make money when we help customers make purchase desicions.

これは今後の Amazon のビジネス領域を見極めるうえで極めて重要な視点だろう。この時点で販売を「物を売ること」とは捉えていないことがわかる。「(たとえば Web というインターフェイスを使って)顧客が『これを買おう』と思う手伝いをすること」をビジネスの目的としているのだ。この文脈だとネット直販をしている小売が商売敵ではないことも納得がいく。むしろ雑誌通販などをしているところや店舗を持っていて品物を体験できるところのほうがベンチマークの対象となるのだろう。

What would you say has been the nature of your biggest strategic mistakes?

I think most big errors are errors of omission rather than errors of commission.

「一番大きな戦略上の過ちは?」という質問に対して「やってしまったことじゃなくて、やらなかったことこそが一番大きな過ちになると思う。」という答え。挑戦すべきだという考えは徹底している。日本語で言うなら「やらずに後悔するよりやってから後悔するほうがいい」といったところだろうか。

「そのような文化を維持するために何をやってるの?」という質問については、

you will always get asked the question, "Why? Why do that?" But "Why not?" is an equally valid question.

やらない理由(やるべきでない理由)がないならやっちゃえば?という考えを浸透させるためには、「なんでやっちゃダメなの?」と聞くのは有効だそうだ。

きりがないのでここまでにしておこう。ここで取り上げたのは象徴的な発言ばかりだが、実際にインタビューではそれぞれについてのもっと具体的な話も語られている。わずか 7 ページ程度のインタビューなので、読む機会のある方はぜひ目を通してみることをお勧めする。

ついでに、Jeff Bezos についての過去のインタビューなどの一部は下記へ集めている。ご参考までに。
http://del.icio.us/zep716/bezos



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アマゾン 買【あまぞn:Amazon.co.jp最大級の通販サイトです。本もDVDもCDもエレクトロニクスも揃ってます。】at October 21, 2007 06:56
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links for 2007-10-21【気になる記事の書き出し帳】at October 21, 2007 18:22
満足せる豚。眠たげなポチ。:Jeff Bezos が語る Amazon は何を考え続けているのか? Amazon の創業者 Jeff Bezos のインタビューの抄訳だが、ひとつひとつの言葉が非常に示唆に富んでいる。 問い続けるべきは、「この5〜10年で何が変わるのか?」ではなく、「この5〜1
「トレンド」に焦点を当てるのがギーク、「今」に焦点を当てるのがスーツ【アンカテ(Uncategorizable Blog)】at December 30, 2007 23:50
「なぜかはよくわからない。でも、これだけは言える。企業にとって有意義な結果が出るまでにはたいてい着手してから5〜7年は必要だ。」 満足せる豚。眠たげなポチ。:Jeff Bezos が語る Amazon は何を考え続けているのか?
時間【名言で読む「はてな」】at January 01, 2008 18:50