毎日、酒をのむ。そして夕暮になると酒をのみながら、人生は面白くないと一人で仏頂面をしている。酒をのみ終ってから一人で食事をする。食事をしてから一人で自分の部屋に戻り、何もかも面白くないと仏頂面をする。
『海と毒薬』、『沈黙』といった名作を著した遠藤周作の文である。
インターネット時代のスピード感に乗せられるままに走っていると、ふとよくわからないイライラ感というか、ままならない感を感じることがあるが、そんなときにこういう文に出会うとほっとする。
あれだけ重苦しい文章を書いて人生を考え続けていたような遠藤周作もこうしてみると、けっこうつまらない、そして魅力的な一人の人間だなぁと思う。
(「ぐうたら人間学 狐狸庵閑話」の「酒のさかな」からの引用。)
そうかと思えば、一転、シロウトブログ書きとは一線を画す凄みを感じるような一編もある。
同じ「ぐうたら人間学 狐狸庵閑話」の「雪の夜、書斎に“無言の友”」は知人がちょっと変わった鳥を自分にくれに来たというだけのエピソードで、昨今の日記ブログと大差ないネタである。それが、文章を書ける人間が書くとこう書くのかと感心する。
本当にたいしたことないエピソードがそれなりにきちんと文章になっているのである。これがお金をとって人様に読ませる文章というものなのだなぁと感じ入る。隆慶一郎の「時代小説の愉しみ」という本のエッセイを読んだときにも感じたことだが、文章力というのはおそろしい。ほんの数行の中に違いが明白に現われる。