『マーク・ベニオフとsalesforce.comの示す業務システムの未来(1)』の続き。今回のテーマは、「マーク・ベニオフには何が視えているのか?」だ。
マーク・ベニオフはこの日本でのフォーラムによほど気合が入っていたのだと思う。スピーチも熱の入ったものだったし、デモンストレーションも担当の方のデモが終わった後に、わざわざ自ら再度ポイントを強調しながらデモを行っていた。たしかにマーク・ベニオフによるデモの方が、このsalesforce.comの魅力の核心を突いたものだったと思う。
さて、マーク・ベニオフの考えていることを反映させた上で、このsalesforce.comがユーザー企業へもたらすベネフィットを説明しておこう。
salesforce.comが実現するのは従来では考えられなかった圧倒的なスケーラビリティとスピードだ。
salesforce.comの実現するスケーラビリティ、それはERPシステムで地道に行ってきたデータの統合などで得られるそれを凌駕するものだ。
sforceとmultiforceにより、自社の他のシステムはもちろん、取引先や子会社のようなあらゆる企業とのデータ連携が可能になる。しかもこれは柔軟なデータ連携であり、既存の資源を最大限に生かした形での連携を可能とする。
ERPシステムはデータのスケーラビリティを提供し、グローバリゼーションの流れの中でその促進に大いに貢献してきた。だが、このsalesforce.comの考え方では従来型のERPシステムは不要になる。
データはそれぞれが持ちながら、なお柔軟に連携し活かすことが可能になる。
そして、salesforce.comの実現するスピード。これはこれからの業務システムでは顕著にビジネスのスピードへ影響し、数年後にはsalesforce.com型のシステムが当然となるところまで淘汰が進むのではないかと思う。
先ほどはてなフレームワークやRuby on Railsを引き合いに出したように、実はsalesforce.comは現在最高クラスの業務システム構築システムである。RADツールなのである。
今でもウィザードによるカスタマイズをベースにはしているものの、multiforceとsforce、customforceの提供が示すものは明らかだ。salesforce.comはWebアプリケーション構築フレームワークなのだ。しかも、フレームワーク上でアプリケーションを構築する細かなツールもそろっている。それがcustomforceであり、管理者用のウィザードである。
このフレームワークを利用して業務システムを開発し、既存のデータはすべてウェブサービス経由で再利用する企業と、従来型のスクラッチ開発を行う企業がどれだけビジネスのスピードにおいて差が出てくるかについては説明の必要はないだろう。
IT Doesn't Matterという話もあるが、これでまた一つ最低限装備しないといけないITのレベルは上がるだろう。
そして、これらを通じてマーク・ベニオフが描くsalesforce.comの未来の姿は、Googleがパーソナルユースを対象にやろうとしていることと同じだ。ビジネスアプリケーションのOSである。multiforceでそのものOSという表現まで出てきている。
全ての情報はsalesforce.comを通じてリーチできるようになる。必要なアプリケーションはsalesforce.com上で動作する。これがマーク・ベニオフがこのsalesforce.comという野心的な製品で視ている未来なのだと思う。
一つ一つのパーツは目新しいものではない。むしろ新しいもの好きで追いかけている人にとっては、今さらという概念ばかりだろう。だが、そのパーツの選び方、そして組み合わせ方、実現するベネフィットの方向性、それらがそれぞれ絶妙に正しい方向を向いていると感じる。
ところで、スピーチの中でマーク・ベニオフが使っていた単語で特に印象的だったものが二つある。
それは、POWERとTRANSPARENCYだ。どちらもsalesforce.comやそれが体現する新しいITを表現した言葉だ。なるほど、納得。