伝説のトレーダーをマネジメントするには

by tanabe on May 04, 2005

藤巻健史氏の「タイヤキのしっぽはマーケットにくれてやる!」を読んでいる。自身「伝説」と呼ばれたトレーダーである藤巻氏が尊敬するトレーダーとして挙げていたマーカス・マイヤー氏の話が興味深い。

日本に赴任してきて三ヶ月の間ほとんど何もしなかったマーカス・マイヤー氏は、その三ヶ月の観察期間で藤巻氏のマーケット分析の能力を買い、藤巻氏が強く自信を持ったマーケットの見方に対し、三倍の巨大なポジション(持ち高)を持つよう指示したという話があった。

「三倍の巨大なポジション」については、

 三倍のポジションというのは、当時の私にとっては考えたこともないほどとんでもない巨大なポジションだった。JPモルガンのあらゆるトレーダーの中でも最大の、それもダントツに大きなポジションになった。東京市場で同じような仕事をしている人たちの中でも、突出したポジションになったのはもちろんである。

という記載があり、その判断がマーカス・マイヤー氏にとってもけして小さいものではなかったことをうかがわせる。

この話を受けて、藤巻氏の語る上司とトレーダーの話が良い。

「いいトレーダーが育つかどうか」はまさに上司次第であると、私は絶えず言ってきた。とかく上司は、トレーダーの損がたまってくると不安になり、文句を言いたくなる。自分の部署の成績を左右する大きなポジションを持っているトレーダーであれば、上司とは運命共同体だから、なおさらである。自分が直接トレーディングしていないからなおさら不安なのである。運転手を信頼していないと、助手席に乗っているのがえらく不安になるのと同じである。トレーダーにすぐ損切りをさせたくなる。

 トレーディング経験のない上司を持ったトレーダーは、とりわけ不幸である。上司は「損をしている時に損に耐える胆力を鍛える」訓練を積んでいないからである。上司のするべき仕事とは、トレーダーの論理を検証するため、絶えずトレーダーと論戦することである。トレーダーがどの程度マーケットの見方に対して自信を持っているかをチェックすることである。論理に無理があったり、自信がないのにポジションを持ち続けているようだったら、勝負から降ろすべきである。

トレーダーの「マーケットの見方」に対し、どのくらいその論理に自信を持っているのか、をチェックするというのがいい。

「マーケットの見方」というwhatに対して、「自信」という視点で定量的にチェックをする。もちろん「自信」なんてものは厳密には定量的に量れるものではないのだけど、それはビジネスとしての視点なので、厳密に量るわけではなくて、「こいつはOK」か「こりゃ、NG」のどっちかを判断できる程度でいいわけなんで、「マーケットの見方」のロジックと「自信」の程度でチェックするというのは、非常に具体的で本質的な報告の受け方だと思う。

何が本当に必要なことか、が分かっていないと定型的な管理手法を使って色々と情報は集めたけれど、何も肝心なことは把握できないという結果になりがち。

ITILやPMBOKを学ぶのはもちろん大切なんだろうけど、そもそもの本質的なマネジメントっていうのはこういうことなんだと思う。

以前書いた「「何を管理すべきか?」がマネジメントの本質を問う」なんかもその辺りの機微を書きたかったのだけど、さっぱり書ききれていなかったのでこの話も書いておく次第。

ちなみに、今回取り上げた「タイヤキは・・・」はあまりオススメしません。読みやすいし、面白おかしいけど、まぁ、それなりの本。

どうせ藤巻氏の本を読むなら、「藤巻健史の実践・金融マーケット集中講義」の方がずっと内容が濃い。これもお堅いはずの内容が軽妙な語り口で非常に読みやすくなっているので、タイトルに臆せずこちらを読んだ方が良いです。ということで、リンクも「集中講義」の方だけ貼っておきます。

藤巻健史の実践・金融マーケット集中講義