今回は、既知の現象をまとめてみるだけ。わかっている人には今更の話。わからない人にはここ見せればいいかも、っていう話。ただ、The Long Tailを考える場合にも重要な前提となっている話だと思う。
Webが実現する顧客志向のマーケティング
Webは顧客志向のマーケティングを実現する強力なツールだ。企業はWebを活用したマーケティングを積極的に推進するべきだ。
- 現代は顧客経済の時代であり、顧客創造こそが最重要課題となっている
- 顧客を創造するためには、製品主導主義から顧客中心主義へとシフトしなければならない
- 顧客志向の知覚−反応マーケティングのツールとして、Webは非常に優れている
顧客経済の時代
現代のマーケティング上の重要課題は、顧客創造だ。市場に製品はあふれており、顧客はその中から好きな製品を選んで使う。このような中で企業が意識をしなければいけないのは、「何を作るか」ではない。また、「製品を必要としている顧客はどの層なのか」でもない。そういった売らんかな主義、いかに売るかの発想から脱却をする必要がある。
一人一人の顧客が何に関心を持っているのか、何を望んでいるのか、を考えなければならない。彼が(彼女が)価値を感じるのはどういったサービスなのか。対価を払ってでも得たいと望むのはいったいどんなことなのか。そして、”顧客”という総体としてはそれらがどういったバランスになるのか。これが最も大切な視点になっているのだ。
この視点を欠くと、そもそも顧客のいない所へ向かって”素晴らしい製品”を大々的に売り出すということになってしまう。不足しているのは製品ではない。顧客なのだ。
製品から顧客への意識転換
顧客経済の時代という視点を持つと、必然的に製品主導の仕組みから顧客主導の仕組みへという根本からの変化を受け入れることになる。
製品を作り、顧客のセグメントを分析し、最も勝機のあるところを狙い撃つという製品主導型のマーケティングは必要ないということではない。ただ、この方法論は「狙いさえ外さなければ、そこに顧客はいるはずだ」という前提に基づいている。そのセグメントがすでにライバルによって刈り取られていた場合には所期の効果は期待できないだろう。
そこで発想の転換が必要となってくる。まず顧客を知るのだ。顧客を知り、その望むものを提供する。このプロセスを「コトラーのマーケティングコンセプト」から引用してみよう。
ほとんどの企業が顧客中心主義というよりも、製品主導主義の立場に立っている。その思考プロセスを図示すると次のようになる。
資産 → 投入(インプット) → 提供物 → チャネル → 顧客
こうした企業は製品主導型で資産に莫大な投資を行っているため、想定しうるあらゆる顧客に提供物を押しつけようとする。個々の顧客の違いや価値には注意が行き渡らない。個々の顧客をよく知らないためにに、クロス・セリング(抱き合わせ販売)やアップ・セリング(高値販売)もうまくいかない。どちらも、顧客1人ひとりについての取引情報等を集めるとともに、彼らがほかに興味を持ちそうなものを推測する必要があるからだ。顧客志向の企業は、上とは異なるアプローチをとっている。それは、知覚−反応マーケティングと呼ばれるもので、以下のようなプロセスをたどる。
顧客 → チャネル → 提供物 → 投入(インプット) → 資産
顧客を理解することから始めれば、チャネル、提供物、投入、資産をより適切なかたちで展開できるようになる。
顧客志向とは、目の前のお客様へ親切ごかしにサービスを押し売りすることではない。企業としての大いなるパラダイムシフトなのだ。
顧客志向マーケティングツールとしてのWeb
そして、この顧客志向のマーケティング、知覚−反応マーケティングを実現する手段としてWebは非常に有効だ。ただし、当然テクノロジーは万能ではない。メリット・デメリットを理解し、それを生かしきることが必要だ。
まず、Webの末端は一人一人の顧客と直接つながっている。これは非常に大きなメリットだ。直接の販売店でしか知りえなかったような生の顧客の様子というのを逐一知ることができる。
そして、Webは顧客のすべてのアクションを記録することができる。Webサイトのどこのページでどれを何回クリックしたのか。入力した文字は何なのか。さらにそのページから移動したのはどこのページか。これらは客観性の高い事実であり、時には顧客自身よりも顧客の求めるものを描き出すだろう。企業はあらゆる入力の意味を考える必要がある。顧客が起こしたすべてのアクションの意味を考え、そこから導かれる顧客の意図を読み取るような分析が必要だ。全体の中での割合、回数、そして訪問されてからの流れといったものを徹底的に分析し、顧客の考えるところを知らなければならない。
最後に、Webは顧客からその望むもの以外の余分な属性を排除するという特長もある。職業や年齢、性別といった属人的な情報はわからない。ただ、そのヒトは何を求め、どのように振舞ったのか、それだけが記録として残る。より本質的な「何が一番の関心なのか」に焦点を絞った分析ができるというわけだ。
一方で、その特性ゆえの弱点もあるだろう。
まずは経年的に解消されると思われることだが、当面の問題としては顧客層に年齢による偏りがあるという点が挙げられる。特に今後の重要顧客になり得る高年齢層に弱いというのは、よく考慮すべきだ。Webマーケティングを生かすと共に、この弱点を逆手にとったマーケティングを平行させるべき、とも言える。
そして、先ほどはメリットとして挙げた「属性の排除」が弱点にもなりえる。例えば、顧客の生み出す利益とWebで得られる動向との相関が分かりにくいなどの点だ。こういった理由で戦略的な打ち手に困るという可能性はある。ただ、その場合はそれを補完する別のデータを収集するべきだろう。
ここまでで述べたWebによるマーケティングは何もWebによる販売を行っている企業だけに関わる話ではない。メーカーでもたいてい製品情報くらいはWebで公開しているだろう。このアクセスを記録し、マーケティングへ生かしているだろうか?時間軸での変化や、商品別、商品のカテゴリ別などの違いを見ることで十二分に新しい可能性を探れるはずである。SEOだけがWebを使ったマーケティングではない。
オマケで、モノツクリな国の人たちへ
今のところ、Webのこうした利点を積極的に生かしているのは、GoogleやAmazonといったいわゆる”インターネット企業”だ。これらの企業はWeb上のデータの見方、扱い方に長け、その価値をよく知っている。
彼らが得意としているのは、テクノロジーであり、顧客のインプットをどういう意図として読み取るかという読み取り方だ。テクノロジーでGoogleに追いつくのは容易いことではないだろう。しかし、顧客志向のマーケティングの分野でも彼らに遅れをとる必要はない。まずは手持ちのインプットと目の前の顧客を相手に、その望むことを理解してみよう。
Webは非常に強力なツールだが、一方でけっきょく消費者にお金を払わせやすい土俵というのは物理的なモノ・サービスであるのも現在の状況だ。人を接点として提供されるものと言い換えてもいいかも知れない。Googleが莫大な利益をあげている広告も、末端にはモノ・サービスを売りたい企業がいてこそ成り立っている。
モノツクリ国家、モノツクリ企業と卑下することはない。顧客から始まる製品をつくって、GoogleやAmazonを養ってやろうくらいの気概で良いのではないか?そのためには、必要な武器、そして先駆者について大いに学ぶべきだと思う。
後記
Webの最大の利点はそのスケールメリットであり、”製造した分だけ”しか販売できない製造業には物理的な限界が弱点となって、本質的な”インターネット企業”には勝てない、というのは正論だと思うけど、実際に企業が作り出す必要がある利益は必ずしもGoogleクラスだけではないので、ここではこういう話として受け取っておいてほしい。
日本における「こちら側」「あちら側」観て、こういう手がかりになりそうなステップを踏んだ方がシフトして行きやすいと思うので。もちろん「あちら側」をばりばりと駆使して、スケールの大きな仕事を成し遂げる企業が出てくるのが一番の楽しみではあるんだけど。