Paul Graham 「ハッカーと画家」−富の創りかた

by tanabe on March 07, 2005

Paul Graham氏の「ハッカーと画家」についてのエントリ。なんだかんだで3回目。1回限りのつもりだったのに、あまりに内容に記しておきたいことが多くてどんどん増えてしまった。

第6章 富の創りかた - How to Make Wealth - も素晴らしい。しかもこの文章は川合史朗氏のサイトにも翻訳されていないし、Paul Graham氏のサイトにも見当たらない。

まずはここでいう富の定義から始まる。

「富はもっと根本的なものだ。富とは、私たちが欲しがるもの、食物、衣服、住居、車、道具、観光地への旅行、そういったものだ。」


そして、お金は富を得るための交換媒体だといい、ビジネスの意味へと言及する。

「人々はビジネスというのはお金を儲けることだと思い始めた。だが、お金は欲しいものを手に入れるための単なる中間段階、省略記法にすぎない。ほとんどのビジネスがやっていることは富を生み出すことだ。人々が欲しがることをやるんだ。」

これはPaul Grahamの基本的なユーザの捉え方に結びついている。本書でも散見される、どのようにユーザと付き合うのか、良いシステムデザインとは何か、という内容を語るときにはこの内容がベースになっている。

そして、この章のテーマである富の創りかたについての一番端的な言葉はこれだろう。

「裕福になるためには、2つの環境を整えなければならない。測定と梃子だ。まず、自分の生産性が測れる地位に就かなければならない。(略)また、梃子が必要だ。すなわち、あなたの決定が大きな効果を持つようにすることだ。」

「でも、測定と梃子を手に入れるために、CEOや映画スターになる必要はない。難しい問題に取り組む小さな集団に参加すればいいんだ。」

「ベンチャー企業は測定と梃子のある環境を提供してくれる。小さいことで測定が可能になり、新しい技術を発明してお金を儲けることが梃子になる。」

小さい会社は企業の利益への貢献度がより生に近い状態で個人へとフィードバックしやすいので、測定が容易だ。そして、技術上の問題を解くことは自分一人のためだけになるのではなく、その解放を利用できる全ての人へ影響を波及させることができる。一つの技術上の問題を解くことで大勢へ影響を与えるというのは、梃子の働きのようだ。

続く話として、ベンチャーのような小さい企業はその利点を生かすために大企業では容易に解決できないようなとびきり困難で複雑な問題をこそ好んでチャレンジすべきだ、という話がある。それを解決するからこそ、参入障壁が生まれるのだ、と。

「攻撃こそが最大の防御になる。競争相手が真似するのが難し過ぎるような技術を作りさえすれば、他の防御に頼る必要はない。難しい問題を選ぶことから始め、決断が必要な場面では常に難しいほうを選べばよい。」

もはや葉隠の世界だ。「武士道といふは、死ぬ事と見付けたり。二つ二つの場にて、早く死ぬはうに片付くばかりなり。別に仔細なし。胸すわつて進むなり。」

もう少し現実的な話をすれば、どうしてもGoogleを思い浮かべてしまう言葉だ。

この後は、さんざんベンチャーを誉めてきたので、ベンチャーのリスクに関する記述がある。ベンチャーはオール・オア・ナッシングだという話だ。

そして、ユーザの獲得が重要課題だという話になる。

「あなたもユーザを指標とするべきだと思う。ベンチャー企業を最適化の問題と考えてみよう。その性能がユーザ数で測られるものとするんだ。」

「バージョン1.0を可能な限り速く出そう。ユーザを獲得しない限り、手探りでの最適化からは逃れられない。」

人々が欲しがるものを、ユーザの反応をベンチマークとしながら創りあげるのだ。たしかに非常にまっとうなアイデアだ。

最後に、テーマとはずれるので途中での引用を省いた一節を。

「より重要なのは、小さいグループを選ぶことにより優秀な人物を選べるということだ。トップ1%に入る漕ぎ手で構成できるんだ。全員で平均を取るより少数精鋭で平均をとったほうがいいに決まってる。
 これが、ベンチャー企業の本当の意味だ。理想的には、大企業でやるよりずっとたくさん働いて、ずっとたくさん給料をもらいたいという集団を集めることができる。しかも多くの場合、ベンチャー企業の創立者たちは、お互い既に知っている(か、少なくとも評判を聞いている)、野心的で自分から何かをしようとする集団になるから、ただの小集団よりもずっと測定は正確になる。ベンチャー企業とはただ10人集まっただけじゃない。10人のあなたのような人物が集まった集団なんだ。」

次回は、プログラマ・Paul Grahamの面目躍如といったかんじでエキサイティングな内容だった中盤の3章、「ものつくりのセンス」「プログラミング言語入門」「百年の言語」をまとめて取り上げたい。

川合氏のサイトで読めるものがあるので、ぜひそちらを読まれることをオススメします。

ものつくりのセンス ---Taste for Makers

百年の言語 ---The Hundred-Year Language

ハッカーと画家 コンピュータ時代の創造者たち

=begin

どうでもいいことだけど、一点だけ読んでいて気になることが。nerdは「オタク」よりも「ガリ勉くん」とかの訳の方がイメージが近い気がする。オタクと言われると、どうしても2次元の少女にハァハァ(*´Д`)しちゃう人が浮かんじゃうんで。むしろLispとかにハァハァ(;´Д`)しちゃってるわけだから。

参考) はてな ハァハァ

=end