産経新聞「正論」 「こちら側」と「あちら側」長考

by tanabe on January 13, 2005

梅田氏の正論の記事への反応を読むと、もう一つ主旨が伝わっていないよう。私なりに補足をしてみたい。

切込隊長BLOG」さんの「産経新聞の「正論」で梅田望夫氏の議論を読んでの雑感

「意見としてまではまとまらなかった。分からないからである。あくまで雑感として。」の言葉のとおり、つらつらと流れています。基本的に「あちら側」「こちら側」が事業上のパワーシフトとして捉えられた視点が特徴でしょうか。これはミスリードなのだと思うのだけれど、あらためて「正論」を読み返すと、たしかにこれだけで本意を理解するのは厳しいなという気はします。CNET連載での梅田氏の主張を下地として読んでいたので、私はまったく違和感がなかったわけですが、新聞上でこれを初見で読んで全てを察するのはちょっと無理かもしれません。「あちら側」の「情報発電所」が提供する付加価値の説明を補完すれば、もう少し本意が伝わるのかもしれません。

ということで、ここで整理してみる。


〇「こちら側」と「あちら側」

  • 「こちら側」
    • PCを利用している人がいる所。ディスプレイのこちら側。
  • 「あちら側」
    • インターネットを通じて見える世界。そして、そのサービスを作りだしている、インターネットの先にあるマシン、人、端末、etc。ディスプレイの向こう側。多くの場合はインターネットと解釈して良いと思う。代表するプレイヤーはGoogle。

〇「情報発電所」の持つ価値

「情報発電所」と呼ばれるものの持つ価値は、現在のGoogleの持つ価値に代表される。

  • クライアントPCから見て、インターネットのあちら側にあるマシンの圧倒的な処理能力を利用できる
  • 「あちら側」にある膨大な量のデータ(情報)を利用することができる
  • 「あちら側」を利用した人の足跡(履歴)が、また新たなデータとして「あちら側」に蓄積されていく(何を書いたか、何をサーチしたか、何を買ったか・・・)

〇Googleはインターネット時代の新たなOSとなる

これらを以って、Googleのやろうとしていることは、このように語られている。

Googleが今やろうとしていることは、Gmailに顕著であるが、現在デスクトップ上で我々が当たり前に行っていることをインターネットの「あちら側」に移し、現在我々がデスクトップストレージに当たり前に格納している情報を、インターネットの「あちら側」に移し、結果として産業全体の機能と情報の重心を、Googleが司る「あちら側」へ移行させることである。

Desktop Linuxの可能性とGoogle」より

〇Googleを測る視点は競争力・汎用力・スケーラビリティ

Googleの持つ競争力の源泉を、「サービスを提供している分散マシン群の持つパワーと低コスト体質」にあるとし、これらに対する課題を梅田氏は以下のようにまとめている。

  • Googleの持つ競争力
    • ブラックボックスとなっているマシン群の処理能力とコストは、他企業から見て太刀打ちできるものなのか?
  • Googleの持つ汎用力
    • マシン群の処理能力やコストは、検索以外の様々なサービスのプラットフォームとしても機能し得るのか?
  • Googleの持つスケーラビリティ
    • マシン群の処理能力やコストは、どの程度の規模まで維持できるのか?

※参考エントリ

ここで「正論」の話に戻ると、梅田氏の主張したかったことは、結局このような内容なのだと考える。

日本企業は、上記の「あちら側」「こちら側」に代表される米国のシナリオを織り込んだ上で、今後を考えなければならない。モノづくりに徹するのは良いとしても、それが本当に勝算のあるモノづくりになるのか。付加価値を提供する主体が「あちら側」に移った場合、「こちら側」は競争力を大きく失うリスクを持っているということを理解してヴィジョンを持ってますか?そういうことだと思う。

隊長の下記の話とはちょうど反対の結論ですね。

私の考える「こちら側」と「あちら側」の違いはシンプルである。「あちら側」は「こちら側」の機能に依存しようとする。というより、あちら側のレイヤーだけで産業がそもそも成立しない。あらゆるインターネット業界は、従来産業であるクレジット会社などの金融業、産業広告などを専門に扱う代理店、番組などコンテンツを製作する企業、通販などを従来から行ってきた伝統ある通販会社などの力を利用しながら、情報の提供料という形で付加価値を作り利益を上げている。その利益構造は、従来のメディアが担っていた付加価値を奪うことで成立しているのではないかと思う。端的に言えば、IT業界の「あちら側」が競合し、比較する先というのは同じIT業界内の「こちら側」ではなく、実は従来のメディア、例えば新聞社、雑誌社、通販カタログの製作会社、旅行代理店に駅前の店舗を紹介する不動産業者といった、まったく別の業界の人たちなのだろう。

インターネット通販などの場合は、旧来のロジスティクスが土台として機能することが重要というのが現在の通説ですが、Googleの仕掛けた今回のインターネットビジネスの構図はまた別のモデルを土台としている、というのを「正論」から読み取る必要があるわけですね。(いや、やっぱりそこまでは厳しいなぁ。)

<オマケ>

ちなみに、隊長は主張の本質の部分は理解しており、その上で説明不足の部分で消化不良を起こしており、別視点での長考となった模様。あくまで最初の立ち位置が違うので、どちらが正しい・間違っているというものではない。どちらも興味深く、勉強になります。

同様に、私は梅田氏の発言を否定しているのではない。むしろ、基本的にこの手の商業紙で限られた字数ですべての状況を正確に網羅するほうが無理なので、既存の産業分析を使って日米間の技術的トレンドの「あり方の差」のようなものを表現したかったのではないかと思っている。


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 前掲の駄文は梅田氏の主張を根本から捉えちがえをしていたことが判明。  ご指摘、ありがとうございました。と同時に、視点の違いが客観的に示され、私なりに整理しなおせましたので二重の意味で感謝したいと思い...
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CNET Japan Blog の梅田さんのコーナーがとうに最終回を迎え、その後どこか(ココは除く)で情報発信をしておられるのかなと思っていたら、こんなところにいらっしゃったんですね。素直に嬉しいです。 で、その記事の趣旨についてですが、切込隊長が言っているように私に
梅田さん、お久しぶりです。【McDMaster's Weblog】at January 13, 2005 22:24
モノづくりの強さ過信を危惧す (梅田望夫)を読んだ感想。 さらに深い解説は産経新聞「正論」 「こちら側」と「あちら側」長考にゆずるとしても、何かこの梅田の主張には違和感があるわけで、その違和感の原因とか私の意見は「脳内」ではまとまっているのだが、こうして文章
バーチャルでリアルなエントリー【できる!CSSを使いこなす WeBlog】at January 14, 2005 01:51
切込隊長BLOG 「産経新聞の「正論」で梅田望夫氏の議論を読んでの雑感」 を読ん
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この記事へのコメント
 趣旨、たいへんよく理解しました。
 よく考えればそういう文脈だということは、指摘されるまで気づきませんでした。改めて感謝申し上げます。

 今後ともよろしくお願い申し上げます。
Posted by 切込隊長 at January 13, 2005 04:19
丁寧な解説どうもありがとうございました。付け加えるべきことはありません。
Posted by 梅田望夫 at January 13, 2005 04:35
あまりの光栄に何を書いてよいやらわかりません。
そして、自分のブログのはずなのに、書き込んでよいものか、
空気嫁!と怒られないか、ちょっと心配です。

隊長、トラックバックまで頂き、恐縮です。家宝に致します。

梅田様、いつも新しいインスピレーションを頂いています。どうもありがとうございます。
Posted by zep716 at January 14, 2005 04:36